脳が体脂肪量をコントロールするメカニズムはまだ十分に解明されていないということもあり、セットポイント仮説だけで肥満の成因を説明することはできませんが、このセットポイント仮説にさまざまな要因を加えて、「セットジンクポイント仮説」というものも提唱されています。
ナウル共和国の悲劇「セットリングポイント仮説」とは、人間の体の代謝調節機構は遺伝子によるコントロールだけではなく、さまざまな環境因子の影響も受けながら、体脂肪量を1定に保っているという考え方です。
代表的な例をひとつ見てみましょう。
太平洋の南西部に、人口1万2000人ほどといわれるナウル共和国があります。
伊豆大島の4分の1ほどしかない小さい島で、現在、世界で3番目に小さな国です。
かつて住民は、温暖な気候のもと、自然の恵みを得て暮らしていたと思われます。
また、日本のお相撲さんのような立派な体格ながら、健康な人の多いことで有名でした。
20世紀初頭、この島の土壌が良質のリンを含んでいるとわかると、外国資本が入り込んできて大規模な採掘を開始しました。
ナウルの人々がリンによる利益を得られるようになるのは1968年の独立以後のことですが、皮肉にもそれが彼らの生活を1変させてしまいます。
島のほとんどがリンの採掘場となり、高額の収入を手にした人々は、労働をすべて海外から来る労働者に任せて、どろどろ過ごす毎日。
しかも裕福になったとたんにアメリカ資本が入り込み、短期間のうちに島にはスーパーマーケットやファストフード店などが乱立するようになりました。
先祖伝来の海産物と野菜中心の食生活、食習慣は崩壊し、脂肪と砂糖がたっぷりのアメリカふうの食事が当たり前になったのです。
その結果、1994年には成人の約8割がBMI値30を超える肥満者になり、この数年の間には島民の半数近くが糖尿病患者であるという恐ろしい事態になってしまいました。
長い年月の間、適度な肉体労働をしながら島や海でとれる食品だけを食べてきたナウルの人々は、環境の急激な変化に体の代謝調節機構を適応させられず、バランスを崩してしまったのでしょう。
こうした悲劇はナウルだけに起こっているわけではありません。
急激な近代化によって、それまで肥満とは縁がなかった民族に肥満者が急増している事実は、世界各地に見られます。
たとえばアメリカに住むピマ族です。
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